小学校英語の音声指導を変える提言
はじめに
1999年の夏、私は大学時代からの思いをようやく実行に移し、英語教師としてのスタートを切った。30年間勤務したキャセイパシフィック航空を退職し、福岡市高宮に英会話教室を開いたのである。そのきっかけは、47歳の夏に1年間休職し、英語力向上のためにイギリスのケント大学カンタベリービジネススクール(KBS)へ留学した経験に遡る。KBSでは数名の日本人交換留学生と出会った。ある日、彼らが在籍するクラスを見学したところ、授業はセミナー形式で、グループ発表と質疑応答が中心であった。日本の大学では講義形式が主流だが、こちらでは議論が主体である。しかし、日本人交換留学生たちは議論に参加できず、静かに聞き手に回っていた。中学・高校・大学と8年以上英語を学んできたにもかかわらず、議論に加われない姿を目の当たりにし、私は強い問題意識を抱いた。
1994年に帰国後、CELTA取得や教授法の研究など準備を進め、1999年に教室を開設した。当時、イギリスで見た交換留学生たちの姿が脳裏から離れず、「子どもたちに“使える英語”を学べる環境をつくりたい」という思いが強かった。場所探しと教師探しから始め、教授法と教材については、PLSシステムの導入を決めていた。創始者であるオーマンディ夫妻との出会いは幸運で、姉妹校の紹介で東京のセミナーに参加し、使用許可を得ることができた。しかし、場所探しと教師探しには苦戦した。特に教師探しは、今振り返ると失敗の連続であった。ネイティブは英語を話せるのは当然だが、「教える技術」を持つ人材に出会う確率は宝くじ並みに低かった。
それでも、その後の20年間、会話指導はネイティブ講師に任せ、私は小学生から高校生まで、リーディング、ライティング、文法、リスニングの指導に専念した。2019年にセミリタイアし、2020年からは小学校で英英語教育を手伝う機会を得た。音声指導に理解のある校長との出会いにより、2023年度・2024年度には「フォニックスの基礎指導」を担当することができた。この実践を通して、フォニックスの習得が日本人英語学習者の成功の鍵になると確信するようになった。児童たちの反応や感想は、私の背中を強く押してくれた。言語の臨界期とされる9歳頃までに明示的なフォニックス指導を行えば、小学校の英語教育は大きく変わるだろうと感じている。
英語力を支える重要なスキルは、語彙・文法・発音の三つである。中でも発音指導は、年齢が低いほど効果が高いことが脳科学の研究で明らかになっている。脳神経外科医・植村研一氏の研究では、英語を英語のまま理解するバイリンガルと、読み書き中心で学んだ日本人学習者では、英語を聞いたときに反応する脳の部位が異なることが示されている。バイリンガルは英語を直接理解する一方、読み書き中心の学習者は英語を日本語に訳して理解していた。この研究から、英語の言語中枢を独立させるためには、まず「聞く」ことから始める必要があると私は考えるようになった。聴覚中枢から話す・読む・書く中枢へとつながる脳の仕組みを踏まえると、音声指導の重要性は明らかである。
では、なぜ「今こそフォニックス」なのか。なぜ現行の小学校英語の音声指導を改革する必要があるのか。これから、その理由と、私が実践してきた「音から読みへつなぐアプローチ」について順を追って紹介したい。
小学校の校長先生方へ
私は2020年から5年間、小学校で英語教育に携わる機会をいただいた。その中で、音声指導の重要性を深く理解し、現場での挑戦を後押ししてくださる校長先生と出会えたことは、私にとって大きな励みであった。校長先生の理解と決断があったからこそ、フォニックスの基礎指導を実践することができ、子どもたちの変化を目の当たりにすることができた。残念ながら、教育委員会には英語教育の専門性を十分に理解できる人材が多いとは言えない。だからこそ、学校現場を最もよく知る校長先生の判断とリーダーシップが、子どもたちの未来を左右する。
フォニックスは、特別な設備も予算も必要としません。必要なのは、
- 子どもたちの可能性を信じる姿勢
- 現場の先生方を支える校長先生の理解
- そして「音から読みへ」という一貫した方針
この三つだけです。
英語が苦手なまま大人になる子どもたちを減らすために、英語を“使える力”として身につけられる子どもを増やすために、どうかフォニックス指導の導入を前向きに検討していただければ幸いです。校長先生の一歩が、子どもたちの未来を確実に変えます。
