フォニックス指導へのきっかけ
私は、1999年から約20間、経営していた英語教室で会話はネイティブに任せて、小学生、中学生、高校生に読み書き・文法・リスニングの指導をしました。2019年にセミリタイアした後、2020年6月より、福岡市内の市立小学校でゲストティーチャーとして、中・高学年の英語教育をお手伝いしています。これまでの経験から、改善できる点がいくつかあると感じています。その中でも、今の音声指導の方法を改善するのが一番効果的であると確信しています。現行の音声指導は、私の知る限りでは、チャンツ、CDの音を聞き取るドリル、ALTの発音を聞いてオウム返しで声を出すのが中心になっているようです。この方法では、聞き取れたり、正確に発音できるのは一部の耳の良い児童だけであり、自分自身でその調音法に気付くことを待つのは現実的ではありません。言い換えますと、「聞き取れない」、「正確に発音できない」、という状況を改善できる教材や指導法が必要となります。フォニックスを明示的に指導することが解決への近道だと考えています。私は、その必要性を2021年から数回にわたり福岡市教育委員会に提言してきましたが実現には至っておりません。そのような時、お手伝いしている小学校の理解と協力を得て、2023年10月より、指導要領に沿った授業進行に影響を与えない範囲内で、4年生のクラスの中で毎週5分~10分フォニックスの基礎指導をする機会を得ました。今後の参考資料として、2024年の2月まで17回のレッスンの中で、指導内容と手順、生徒と私との相互作用、生徒たちの変容、担任の先生方の意見・感想などについて記録をとっていきたい。私に残された時間は多くありませんが、ライフワークとして、一校でも多くの小学校に効果的な音声教育を導入して欲しいと願っている。その成果を福岡から全国に発信できればと夢見ております。
なぜ9歳から始めるの、フォニックスを?
日本人はなぜ英語が苦手なのかについては、長年にわたり議論されてきましたが、未だに具体的な解答には至っておりません。多くの日本人が8年以上もの間、中学校、高校、大学で英語と取り組んできたにも拘わらず、聞けない、話せないという状況にあります。では、なぜ話すことが苦手なのか?それは、話す努力が足りないからではなくて、聞く訓練が不足しているからです。文字で書いてもらえば知っている単語でも、音として聞いた時に聞き取れない、スペルが推測できないからです。相手の言っている内容が聞き取れなければ、会話は成り立ちませんし、続きません。聞く力を持たないままコミュニケーション力(自分の思いや考えを伝える、質問する、答える)を身につけようとしても、限定的な進歩しか期待できません。日本人にとって英語を習得するには、先ず英語を聞き取れる「耳」を訓練しながら、「耳」で学ぶのが一番の近道だと考えられます。 「耳」で学ぶとは、日本人の赤ちゃんが周囲の大人たちの話す音を聞きながら、徐々に母語を理解していくプロセスを指します。このプロセスは理想ですが、我々の対象となる児童は早くて8~9歳になります。小学校中学年や高学年を対象に、「耳」から学べる教材、カリキュラムが必要になると考えます。この9歳の年齢について、専門家たちの興味ある検証報告があります。彼らの検証を集約すると、「音声指導の開始時期は、9歳の壁と呼ばれる時期があり、9歳までにスタートするのが望ましい(樋口、2005、植村、2009、長谷川、2011)。脳科学的な見地から学ぶ順序は、listening practiceから入り、言語野に母語以外の独立した部局を形成するのが効果的である。英語を担当する部局を使用しなければその機能は9歳を境に退化していく(植村、2009)。小学5,6年生はアルファベット文字の読み書きや、文字と音の関係を学ぶのに効果的な年齢であり、フォニックス指導に適している(山見、2016、戸谷、2018)、発音のルールを感じ取ることにより、未知の単語に出会った時に正しい発音を推測することができる、体系的に、継続的に実施することが肝要である(松土、2021)」など、フォニックス指導に対して積極的な意見・報告が多い。
日本人教師こそができるフォニックス指導!
私は、日本人教師でもできると確信しています。いや、日本人教師だからこそできる、と言った方が正確かもしれません。フォニックス指導は、文字が持つ音を学び、音と綴りの関係を教えることを指します。日本人教師が分かりやい平易な言葉で音の出し方を説明することで、生徒たちは発音の仕方を理解することができると考えています。特に、母国語の発音方法との対比を通じて説明することで、日本人教師はネイティブ教師よりも効果的に指導できる可能性が大いにあると考えます。前述したように、4年生のクラスでフォニックスの基礎指導を始めて約2か月が過ぎました。トップページで述べている効果はまだ見られませんが、児童たちは間違いを恐れずに意欲的に取り組んでいます。この2か月あまりで、アルファベット26文字を正確に発音すること、母音の‘a’と組み合わせて2文字ベースの発音練習、3文字の単語をCDで聞いて最初の文字、最後の文字などを聞き取る練習、3文字単語を読む練習などをしてきました。児童たちの発音の上達には担任の先生方は驚いています。児童たちはスポンジが水を吸うが如く上手に音を吸収しています。また、3文字単語を読むことに挑戦して、成功した時の児童たちの達成感を強く感じました。フォニックス指導上で重要な点は、ネイティブが聞いて問題がないと認めるレベルの発音を目指して練習することです。発音のレベルがその域に達していない場合、ネイティブの音を聞いたときに本人が認識している音と一致しないため、聞き取ることが難しくなる可能性が高くなります(文脈から推測できる場合もありますが。)
私は、諦めずに提言を続けます。
私の提案は、中学年(アルファベットの小文字を学習する時)を対象にして、フォニックスの規則を徹底的に指導し、彼らに正確な発音方法を身につけさせることです。ネイティブが聞いて問題ないと認めるレベルの発音を目指して欲しいと考えています。また、この指導と同時に、「聞く」トレーニングを開始することが理想的です。この「聞く」トレーニングの目的は、英語の音を聞き取れるための「耳」を育てることです。一定の発音レベルが達成できれば、「聞く」トレーニングに入る準備が整います。英語は日本語と比較して音域が高く、同じ音が存在しないため、英語を聞き取るためには、最初は母音が持つ音を練習することから始めます。次に、母音と子音の2文字の組み合わせを練習します。この2文字の練習は、発音は違いますがローマ字の読み方と似ています。そして、3文字の単語を読むことに挑戦するのが良いと考えます。このように、文字と音の関係が分かり始めると、多くの生徒は3文字の単語を読めるようになります。実際に、担任先生の許可を得て、3年生が4年生に進級する直前に3文字の単語を読むことに挑戦させました。生徒たちは意欲的に挑戦し、成功した時の彼らの達成感を強く感じました。
なお、これと並行して「聞く」耳を育てる練習が必要です。3文字の単語をCDで聞いて、最初の文字、真ん中の文字、最後の文字などを聞き取る練習が効果的です。これにより、各アルファベットが持つ音を聞き取ることができるようになります。言い換えますと、音からスペルを推測できるようになるのです。つまり、音を聞くだけでスペルが分かり、知っている単語であれば意味が理解できるのです。そして、この力が単語を読む力に繋がっていきます。このような素晴らしい効果をもたらすフォニックス学習を取り入れない理由は何もないと考えます。日本人学習者にとって、フォニックス学習は大きな武器となり得るものです。繰り返しますが、ネイティブが聞いてOKが出るレベルの発音を目指して学習して欲しいと思います。なぜなら、発音は相手に正確に伝えるだけでなく、聞き取りの際にも大きな影響を与えるからです。今年は2020年の導入から5年目にあたりますので、文部科学省や教育委員会には過去の検証を基に、必要に応じて大胆な改善を行って欲しいと切望しています。なお、フォニックス教材や指導方法の例については、約20年間にわたり私の英語教室で使用していたものです。