You can make it if you try!
それでは、長年教室で使用させていただいた教材(Sounds of English, パシフィックイングリッシュクラブ, 2001)を参考にして指導書を作成してみる。一人でも多くの児童や指導する先生のお役に立てれば嬉しい。
ここからは、使用する教材(Sounds of English)と前述の指導内容に沿って、担当教師ができる限りスムーズに授業を進められるように具体的に述べていく。対象児童は4年生。時間数は各授業の中で10分、回数は20回、計200分とした。なお、繰り返すが、これらは2023年10月から約5か月間、フォニックス指導の実体験に基づいたものである。
5-1:第4章4-1目標の正確な発音を達成するために、アルファベット26文字の発音の練習から入る。大文字小文字のどちらを使用してもよい。アルファベット読みはフォニックスの基礎になる。何故なら、英語の発音はアルファベット読みとフォニックス読みがミックスしているからである。正確かつ明示的に音の出し方を見せて、聞かせて、繰り返し練習する。最初は、T(teacher)が発音のお手本を見せてSs(students)は真似て声に出す。次は、SsがTの指すアルファベットを発音する。慣れてくると、ランダムに指して発音させる。DVDを見ながらチャンツで練習するのもよい。Tの練習教材としてhttps://www.youtube.com/watch?v=vuzUmRcw0VQとhttps://www.youtube.com/watch?v=p7KBM7L0tPQ&list=RDCMUCm0GSrLRsbS_zg3uTydMpnw&index=3
を勧める。日本人講師が分かりやすく説明している。You can do it if you try!
5-2:アルファベットの名前読みが正確にできると、書く練習に入る。転写から入り、丁寧に書くように念を押す。基本的に、線上に書く事、背の高い文字、ラインの下にもぐる文字に注意し、そして誰が見ても読めるように丁寧に書くように指示をする。書き順を示す補助教材や練習用の用紙を準備する。書き写しの練習をするときに、26文字の中に間違いを入れておき、間違い探しをしながらドリルをするのもよい。時間はかかるが、Tは一人一人の出来栄えをチェックし、ほめたり、アドバイスをするのが大事。何事も最初が肝心である。
次は、英語の音を聞いて、どのアルファベットであるかを認識し、その文字を書けるようになることを目指す。アルファベットの名前を聞いて、どのアルファベットであるか認識するのは児童たちにとって意外と難しい。その方法の一つとして、Ssにアルファベット26文字のカードを事前に机の上に並べさせる。そして、Tが読み上げるアルファベットを聞いて、分かったSはそのカードをとって上に掲げる。そのスピードを競うのも楽しい。アルファベットビンゴもゲームとして楽しく学べる。今度は、Tが読み上げる文字を書く練習をする。a, h, x,は発音も比較的簡単なので聞き取れるが、発音の仕方が似ているアルファベットの聞き取りは難しい。例えば、bとv、dとt、gとz、tとpなど。ここで差が出るのは、児童本人が正確な発音が身についているかどうかである。私の経験からは、ネイティブが聞いてOKがでるレベルの発音ができる児童の聞き取れる確率は高い。その理由は、本人が認識している音と合致するからである。発音の重要性が試される最初である。
5-3:次は、順番として母音の発音に入ることを勧める。日本語の母音は「あいうえお」の5つだが、英語の場合は短母音、長母音、2・3重母音を合わせると約26個、子音の合計は24個あるといわれている。ここでは、母音の中の短母音、[a, e, i, o, u]に絞り徹底的に練習をする。指導者として、5つの母音の正確な発音が求められる。子音に関しては、前述の指導内容と順序のところでも触れたが、無意味な音素をチャンツやCDを聞いて覚える方法はあるが、焦る必要はない。CDを聞いて最初の音や最後の音、3文字単語の読みに挑戦するときに音として聞かせて、耳から徐々に慣らしていくのが良いと考える。児童たちには、「英語の母音が身につくと短い単語を読めるようになるよ、発音も英語を話す児童たちに近づけられるよ」と伝えてヤル気を起こさせることが大事。それではSsとのキャッチボールを始めよう。カード「a」を見せて、この名前は何?とTは質問をする、Sが「ei」と答える。続けてTは先ず/ æ /と発音をして聞かせる。appleの/æ/は日本語の「ア」と「エ」を同時に発音する。そして、リズムをとりながら、Tは「a」/æ /と名前と発音を同時に(エィ、ア)と発声する。SsはTが言ったことを「a」/æ/と真似て発声する。以下同様に、名前と発音を同時にリズムよく発音をしてSsに真似るように促す。「e」はeggの/e/口の形は横に開く、「i」はinkの/i/口の形は/e/で発音する、「o」はoctopusの/o/唇を突き出し丸めながら、日本語の「オ」を短く、「u」はumbrellaの/ʌ/口をあまり開かず驚いた時の「ア」と短く発音するとよい。母音の練習に関しては、ランダムにTが指さしてSsが正確に発音できるまで、毎週繰り返し練習をすること。特に、/æ/と/ ʌ/は、違いを聞き取れるまで練習をすること。
5-4:いよいよ、『Sounds of English』(パシフィックイングリッシュクラブ, 2001、今後SOEと省略)に沿って、「発音力」と「聞く力」を並行して養成するためのドリルに入る。先ず、母音「a」と各子音の2文字の組み合わせのドリルだ。例えば、ba, ca, da等。SsはSOEのp1とp2を見ながら、母音「a」と各子音を組み合わせた発音をCDで聞く。一二度聞いた後、CDに合わせて練習するとよい。母音、q, xを除いて、全て「a」と組み合わせて発音しているが、最初から答えを言わずにSsに尋ねてみるのも良い。ここでのゴールはSsが独自で最後まで言えることである。次に、p1のB(Listen and circle the correct letters)とp2のC
(Connect the dots starting with the small letter a)をする。大文字、小文字それぞれを順番通りにつないでいくと、あるものが現れる。
5-5:ここからは、子音の音を聞き取る練習に入る。前述した通り、母音の音はフォニックスを学習し始めるには不可欠であるが、子音が持つ個々の音に関しては焦らずリスニングの過程で徐々に身に付けるのが良い。CDを聞いて最初の音や最後の音を聞き取るのである。p3はBeginning Sounds、p4はEnding Soundsを聞き取るドリル。音からどのアルファベットかを聞き取るわけだが、単語の意味が分からなくても絵と答えの中からアルファベットを選んで結ぶことで、Ssは楽しく学習できる。CDからは時々楽しい擬音が聞こえてくる。各ページの下のところにアルファベットの大文字と小文字をもう一度練習する欄がある。
p5とp6も子音のBeginning SoundsとEnding Soundsを聞き取るドリル。答えは3択になっているが、絵が添えてありなかなか楽しい。アルファベットを書く練習する欄がページの下のところにある。時間はかかるが、TsはSsが丁寧に書いているかどうかチェックして欲しい。
p7は子音のBeginning Soundsを聞き取るわけだが、絵が順番通り並んでいない。音の塊を聞いて、その意味を知らない場合は難度が増す。p8は子音のEnding Soundsを聞き取る練習。ここもp7と同様の事が言えるが、単語の意味を再確認したり、初めて単語と出会い意味を知る機会にもなる。
5-6:順番としてはp9の指定のアルファベットの音が聞こえてくる単語の中に含まれているか、聞き分けるドリル。しかし、指導記録の中で述べたようにSsの回答率は低くかなり苦戦をしたので、すぐにp9-p11に行かずに、p12の短母音の聞き取りの復習をしてからのほうがSsの苦戦は少なくなると考える。そしてp9~p11に戻るわけだが、指定の母音がCDから聞こえてくる単語の中に含まれているかどうかを聞き取る難度は非常に高い。特に、/æ /と/ʌ/は苦戦する。/e/と/i/も同様に苦戦するので、十分時間をかけてすること。聞き間違った箇所は、時間が許す限りSsが聞き取れるまで繰り返すとよい。指定された母音が、単語の最初に位置する場合は正解率は高く、2つ目若しくはそれ以降にある場合は低くなる傾向がみられる。
5-7:p13-p16はmissingしている子音を聞き取るドリル。子音の音を身に付ける方法は、日本では意味のない音を暗記するのが主流であるが、日本人の児童にその方法を私は勧めません。耳から聞き取り身に付けるほうがストレスも少なく自然に定着すると考える。P13とp14は、答えとなる小文字が上にリストされているのでその中から選択する。全てCVC(子音+母音+子音)の3文字単語で、最初の子音を聞き取るドリル。ここでは既習の子音+母音が大いに役に立つ。Tは正解の子音の音を2,3度繰り返しSsに聞かせるとよい。繰り返すが、児童は意味が分からなくても絵から推測できるように工夫されている。p15は,やり方は同じだが、単語の最後の子音を聞き取るドリル。そしてp16は単語の最初の子音を聞き取るドリル。
5-8:さて、この辺りまで来るとSsは「読んでみたい」、「発音してみたい」という興味が湧いているに違いない。フォニックスの本来の目的である、「読み」に挑戦させよう。初めての挑戦なので、1週リスニングをお休みして、「読み」の導入に集中しよう。2週目からは、「リスニング」と「読み」を同じ授業の中でできるように工夫しよう。それでは、「読み」への指導方法について私の考えを述べてみる。対象となる単語は、C+V+Cの3文字単語だ。読むための基礎は、母音と子音の2文字の組み合わせが基本となる。例えば、「b」の子音と各母音を組み合わせると、ba, be, bi, bo, buとなる。先ず、Tはこれらを正確に発音してSsに聞かせる。Ssはその音を真似て正確に発音できるまで練習する。黒板にアルファベットa,e,i,o,uのカードをはって、「b」のカードを母音のカードに合わせ移動しながらTが発音し、それを真似てSsが発音する。最後の仕上げは、SsがTのヘルプなしで発音できるまで練習する。それでは、Ssに3文字単語の「読み」へ挑戦させよう!Tが準備するのは、3文字単語のカードと裏側に絵が描かれているカード。bagを例にとると、表はbagの文字、裏はbagの絵である。Ssは2文字/ba/の発音はできるはずだ。/g/については、子音の聞き取りのところで出てきたので、読める確率は高い。念のため/g/の発音に関してはTが正確に発音して聞かせること。そして次に意味を尋ねて少し間をおいて裏を見せる。発音ができても意味が分からないSsにはカード裏の絵がヒントになる。「b」で始まる3文字単語は、bed, big, box, bugなどがある。やり方はbagと同じである.ただし、各母音の音には十分に注意して指導して欲しい。特に/æ/と/ʌ/の音の違いに。以上が基本的な私の「読み」への指導法である。なお、C+V+Cの3文字単語の選択については、できる限りSsが知っていそうな単語を探してほしい。ただし、子音の全てが母音と組み合わせることができない。私はパシフィックランゲージクラブの3文字単語カードを活用させていただいている。
5-9:「読み」への挑戦に関しては、「b」を例にとって説明をした。指導方法は「c」から「z」まで」同じ方法でよい。教材のカード作成に時間がかかるが努力をして欲しい。楽しくてユーモアがある絵が望ましい。「読み」への挑戦は、カードを事前に準備しておき、私は子音のアルファベット順に進めた。2回目以降は、リスニングの時間と調整をとりながら、最初はゆっくりと進めた。読めた時のSsの目は輝き「読めたぞ!」という表情は印象的であった。それでは、SOEのp17に戻る。母音の復習で、3文字単語の真ん中の母音を聞き取るドリル。p18も2者選択になっているが、真ん中の母音を聞き取るドリル。p19は選択肢がなく、真ん中の母音を聞き取るドリル。ここまでくると、お気づきの方もいるかもしれないが、同じ単語が繰り返し出てくる。同じ単語を2度3度繰り返すことは記憶を上からなぞることになる。児童も大人と同じように忘れるので、鉛筆書きの記憶をボールペン、できれば印刷できれば理想だ。時々あるが、「聞かなくても答えが分かるよ」というSsがいる。これらのドリルは聞いて「耳」を育てるのが目的である。スペルを知っていると聞こうとするエネルギーが削がれてしまい目的が達成できなくなるので要注意。
5-10:p20は聞こえてくる音から綴りを聞き取るドリル。日本人学習者にとって不可欠なスキルである。日本人はなぜ英語が苦手なのか。その理由は、書き英語であれば分かるのに、音として英語を聞いた時に綴りが認識できないからである。フォニックスを学習し、正確な発音ができるようになるとリスニングも大いに役立つ。繰り返すが、フォニックスは「読む」「話す」「聞く」「書く」の4つのスキルに役立つのである。
5-11:p21はアルファベットを並び替えて3文字単語を作るドリル。最初の問題はo, g, dの3つの文字がある。絵が添えてあるので迷ったときにはヒントになる。クラスの中でアルファベットを黒板に貼って、3文字単語を作るゲームができる。p22は3文字単語のしりとりゲーム。発音ができるSsはスペルが推測できる。正確に発音ができることは綴りを書く時にも役立つ。ここでも絵がヒントとして活躍している。
5-12:p23で「Sounds of English」の前半が終わる。このページの前半は、単語を選んで文章を完成させるドリル。on, box, fatの3つの単語を空所に入れていく問題である。①の未完成な文章は、A cat is the . となっている。②も同様の問題。このページの後半は、c, g, sが持つ特別な音を聞いて練習する。今までは1字1音を学んだが、2つの音を持っている文字もあることを学ぶ。例えば「c」について、今まで習ったcatやcupのcの音と、cityやfaceの時のもう一つの音があることを学ぶ。4年生でここまで進むことができれば十分だと考える。最初に、時間数を各授業の中で10分、回数は20回、計200分としたが、正直言って各授業の中で15分、回数は20回、計300分は欲しい。時間不足の場合は、必要不可欠なページを選択しながら進めるしかないと思う。
5-13:さて、Ssたちは3文字の単語が読めて書けるようになった。文も少し読めるかもしれない。そして、発音も英語らしい発音ができるようになり、英語耳の基礎ができたと思われる。小学校のフォニックス指導の理想は、「Sound of English」の後半に進み他にもある英語の音(オン)を学習することである。その内容を簡単にいうと、bl, cl, dr, sn, tr等、子音の二文字を一つの音(オン)、として練習することである。いわゆる「Blends」と呼ばれ、子音が2つまたは3つ連続したとき、もとの音を残しながら混ざる(ブレンドされる)音のルールである。これらを正確に発音したり、そして聞き取ることは日本人学習者にとって大変難しい。日本語と英語との音域の差が大きいのも原因の一つである。小学5,6年生では音声指導が更に強化されていくので、Ssたちの耳の機能が退化し始めるまでに「Blends」の学習もお手伝いしてみたい。