第2章 発音力を磨くには
発音力を磨くには、そのゴールを設定する必要を感じる。まず目標を設定して、いかにそれを達成できるかを考えてみたい。正直言って、私にはネイティブと同様の発音はできない。そこで、そのゴールを次のように設定する。ネイティブに間違いなく正確に伝わるレベル!とする。それでも、このゴールを達成するのは簡単ではない。発音は難しい。なぜ発音するのが難しいのかその原因が分かれば、自ずと解決策が見えてくるのではないだろうか。
なぜ、発音するのが難しいのか、英語と日本語との違いについて調べてみる。大きく2つの違いがあるようだ。それらは音の数の違いと音域の違いである。英語は日本語と比べて音の数が多くあり、母音の数については日本語が5音に対して、英語は約24音あると言われている。子音は日本語が16だが、英語は24ある。それに、英語の音は日本語とは違ってとても複雑な音節で成り立っている。日本語の音節は大部分が母音で終わるが、英語では子音のみで音節が終わる場合がある。日本語がflatであるのに対し、英語にはstressがある。また、更に発音を難しくしているのは、Blends(sn, gr, blなど、2音以上混合)やcombinations(sh, ch, thなど2文字以上で1音)がある。英語と日本語の周波数の違いも大きな要因である。英語の音域は1500ヘルツから1万2000ヘルツと高いのに対して、日本語は約125ヘルツから1500ヘルツと低い音域である。学習者である児童(初心者)たちはこれらの難しいハードルについて何も知らないし、発声法については何も学習していない。これらが「発音するのが難しい」主な原因であると考えられる。
さて、その原因は前述した通り、まず日本語と英語の音域の違いにある。その他の違いとして英語は、子音の数が多い、発音の仕方、音節の数とストレス、そして文章の場合は、語順、ストレスワード、リズム、リンキング、音の脱落、音の同化等々、あまりにも違いが多いので初心者である児童たちは何から取り組んでいけばよいだろうか。やはり単語ベース、すなわち母音と子音の発音、音節とストレスから始めるのがよいと考える。そして、短いフレーズや文章へと繋げていくのが取り組みやすいと考える。それでは、私が令和5年度に4年生を対象に実際に行ったフォニックス指導を紹介することにする。私の基本的な指導姿勢は、臨界期であろう4年生に、まずネイティブの音でアルファベット読みを聞かせて英語の音に慣れさせること、そして明示的に発音方法を指導するように心掛けた。
4年生児童の学習状況は、Let’s try!のUnit5、ちょうどアルファベットの小文字を学習するところであった。願ってもないタイミングであった。先ず大文字の復習から入ることにした。児童も大人と同じように忘れるものだ。次に小文字の名前読みの練習に入った。大文字と形が同じもの違うものを確認しながら、a~zまで一つ一つ練習をした。正確な名前読みがなぜ大切かと言えば、フォニックスは名前読みとアルファベットが持つ音(イン)のミックスから成り立っているからである。例えば、aは/e:/ではなく/ei/であること、エーと伸ばすのではなく小さい音のィが入るように。b, c, d, g等も同じ。その他、日本人にとって苦手な発音、c, f, l, m, n, r, t, v, wなど、口の形、舌の位置などを示しながら練習を繰り返した。fの発音の時に、細い紙切れを使って空気で揺れるのを確認した。この段階での重要な目標はアルファベットを正確に書けることである。書き順を渡して丁寧に書く練習をした。ある児童の文字は宙に浮いたり、下に潜っていた(潜るものもあるが)ので、線上に書くように指示した。書く練習の中で、間違った文字を見つけて正しく書けるか試してみた。やはり間違いに気づかない児童も若干いた。これから英語を身につけるうえで必須事項なので努力をするように念を押した。
さて、いよいよアルファベットが持つ音(オン)の学習に入ることにした。フォニックスの学習に抵抗なく入っていける方法を考えてみた。学習者にとって一番難しいのは、各子音が一つで音(オン)を持っていることである。a, e, i, o, uの母音は基礎中の基礎なので、先ず口の形を示しながら練習した。次に子音については、例えばdを/d/ではなく母音aと組み合わせてdaをとして二文字ベースでの発音/dæ/にすることにした。ローマ字発音は正しい英語発音に繋がらないと否定的な意見もあるが、私は、日本人のひらがな読みにみられるように、母音との2文字ベースの音認識が強みになると考えている。カタカナ英語の悪い発音になるという意見もあるが、ローマ字読みを英語読みに発音すればよいのである。qとx以外はこのように二文字ベースで練習すると、ほとんどの児童は抵抗なくスタートができた。これはローマ字の発音方式に慣れているのが効果的に働いたようである。子音が持つ音(オン)に関しては、リスニングの練習の中で、音を耳で確かめながら学習する方が、意味のない音(オン)を覚えるよりも確実に身につくと考える。例えば、dogと言う単語は「d」,「o」,「g」という3つの音素からできている。しかし、シンセティック・フォニックス(単語を見てそれを個々の音素に(音)に分解し、音素を結合して単語を読む方法)をそのまま小学生の児童に使用するのは勧められない。理由は、日本人にとって子音と母音を切り離して認識することはとても難しいからだ。多くの
日本人には「do」は1つの音として認識する傾向にある。初心者にとっては、フォニックスを学ぶ基礎である5つの母音は別にして、子音が持つ個々の音素を最初から覚えるのは非常に困難であり、かなりの負担なる。フォニックスの基礎を学ぶ順番として、母音+各子音の2文字の組み合わせの発音を最初に勧めるのは、これらの理由からだ。
この章の最後に、脳神経外科医によると、脳内部の言語中枢の機能は、言葉を聞いて意味を察するウェルニッケ言語野と、言語を発するブローカ野がある。声を出して発音する前にウェルニッケ言語野で言葉を聞いて意味を理解する必要がある。であれば、英語学習の基本は、ウェルニッケ言語野で英語音を聞いて、ブローカ野で声に出して練習することが大事である。英語はリスニングから始めてスピーキングに入るのがよい。それに適した教材と指導法が大事になる。