公立小学校での記録 2023年度と2024年度
私のフォニックス指導についてお話しする前に、どうしてもお伝えしておきたいことがある。それは、私の指導法が、多くの英会話学校や公立小学校で導入されている方法とは異なるという点だ。私の提言と実践の中心にあるのは、「日本人児童が学びやすいフォニックス指導」である。
まずは、日本で広く採用されているフォニックス指導法について簡単に紹介する。日本の英会話教室や一部の小学校では、**シンセティック・フォニックス(ジョリーフォニックス)**が多く導入されている。英国の約70%の小学校で採用されている方法で、「文字」と「文字の音(オン)」を学び、それらをつなげて読むのが特徴だ。例えば、アルファベットには a〜z までそれぞれ音があり、まず基本の42音を覚えます。「ten」は「ティー・イー・エヌ」ではなく、t-e-n の音「トゥ・エ・ン」をつなげて「テン」と読む。しかし私は、この方法に違和感を覚えている。意味のない音を覚え、それをつなげて読む作業は、日本人児童にとって非常に難しいと感じるからである。
そこで私は、ローマ字読みを英語風に発音する方法を提案している。日本の小学4年生はすでにローマ字を学んでいる。ローマ字が英語発音の妨げになるという意見もあるが、私は逆に、日本人の「子音+母音」で音を捉える特性を活かせると考えている。実際に、母音と組み合わせて/ta/, /te/, /ti/, /to/, /tu/のように指導すると、児童は抵抗なく音を吸収していく。限られた時間の中で実践した結果、予想以上の成果が得られ、この方法に確信を持つようになった。子音 /n/ のような単音は、3文字単語のリスニングドリルの中で徐々に定着させる。最初の音・最後の音・真ん中の母音を聞き取る練習を重ねると、児童の中に「読んでみたい」「発音してみたい」という気持ちが自然に芽生える。ここが、フォニックスの本来の目的である「読み」に挑戦させる絶好のタイミングだ。前置きが長くなったが、ここからは2023年度と2024年度に小学校で実践したフォニックス指導についてお話しをする。
■2023年10月:フォニックス指導のスタート
フォニックス指導が実現したのは、ゲストティーチャーを始めて4年目の2023年10月である。これまで校長先生に音声指導の改善を提案し続け、ついに承認をいただいた瞬間であった。心強い味方を得た喜びと同時に、大きな責任も感じた。思い返せば前年10月、先生方にフォニックスの勉強会を行った際、ある先生が「子どもの頃にこのような勉強ができていれば、英語で苦労しなかったのに」と話してくださったことが強く印象に残っている。
新しい取り組みには賛否がつきものだ。まずは担任の先生方の理解が不可欠だと考え、次の内容をまとめたお手紙を渡した。
- フォニックス基礎指導の時間をいただいたことへの感謝
* 指導内容(音素指導、3文字単語の読み、リスニングドリル)
* 音素認識が「読む・聞く・伝える」すべての基盤であること
* 日本人児童に適した「二文字ベース(子音+母音)」の指導法が効果的であること
* 20年以上の指導経験から得た結論であること
4年生はちょうど小文字の学習に入る時期で、フォニックス導入には理想的なタイミングであった。10月から2月までの17回、毎週10分~15分の時間をいただき、実践が始まった。
■10月:アルファベットの復習と音の導入
まず大文字の復習、小文字の名前読みを丁寧に行った。日本人が苦手とする発音(c, f, l, m, n, r, t, v, w など)は、口の形や舌の位置を示しながら繰り返し練習 した。f の発音では紙切れを使い、息の流れを視覚化した。この段階の重要目標は「正確に書けること」だ。書き順を示し、線の上に書く練習を徹底した。次に、アルファベットが持つ音(オン)の学習へ。子音を単独で /d/ のように教えるのではなく、da(/dæ/)のように母音と組み合わせて二文字ベースで指導した。ローマ字に慣れている日本人児童には、この方法が非常に効果的であった。
■11月:リスニング(最初の音・最後の音)
いよいよCDを使ったリスニングに入った。
●最初の音を聞き取る
banana の /bə/ を聞いて b を選ぶなど、児童が知っている単語を中心に行った。
アルファベットの発音練習を徹底していたため、正答率は驚くほど高く、順調に進んだ。
●最後の音を聞き取る
次に難易度の高い「最後の音」へ。
予想通り正答率は60%ほどに下がり、特に /p/ と /b/、/t/ と /d/ の聞き分けに苦戦した。
最後の音は消えやすいため、何度も繰り返し聞かせ、児童が自分で聞き取れるまで粘り強く練習した。
●担任の先生からの質問
この頃、担任のA先生から「フォニックス指導は本当に必要ですか?」という質問をいただいた。私は次のようにお答えした。
*新学習指導要領では音声指導が重視されている
*しかし現状は「聞いて真似する」活動が中心で、効果が十分に出ていない
*ドリルの前に、音と文字の関係を系統的に教えるべき
*日本人教師は母語との対比を使って、ネイティブより効果的に教えられる可能性がある
*フォニックスは「聞く・話す」だけでなく「読む・書く」力の基盤になる
翌週、私は具体的成果を示すため、3文字単語(CVC)の読みを試した。bag, big, cat, cup, dog など、ほとんどの児童が読めた。児童も担任の先生も、そして私自身も思わず笑顔になった瞬間であった。
■12月:母音の聞き取り(最大の山場)
フォニックス指導の最大の山場である「母音の聞き取り」に入った。
●「a(/æ/)」の聞き取り
ランダムに単語を流し、/æ/ が含まれるかどうかを判断する。初回の正答率は低く、児童たちは悔しそうな表情を見せた。しかし、一つずつ確認しながら復習すると、徐々に理解が深まった。特に /æ/ と /ʌ/ の混同が顕著であった。
●「e」「i」へ
「a」を復習した後、「e」「i」へ進んだ。単語の最初に母音が来る場合は正答率が高く、中央に来ると難しくなる傾向があった。12月末までに1クラスは「i」まで
2クラスは「e」まで進むことができた。
■2024年1月:冬休み明けの再スタート
3週間の冬休みで忘れているだろうと心配していたが、児童たちは「a, e, i, o, u」を思い出しながら発音してくれた。これは大きな成長でした。私は児童たちに次のようにお願いした。「今挑戦していることはとても難しい」「正答率50%を目標にしてよい」「聞き取れなかった時は、どのように聞こえたか教えてほしい」と。一人でも聞き取れなかった場合は、時間が許す限り何度も聞き直し、本人が納得できるまで練習した。聞き取れた瞬間の笑顔と、周囲の温かい拍手がとても印象的であった。特に /ʌ/(sun, run, bus など)の聞き分けは最後まで難しく、多くの児童が苦戦した。
■2024年2月:最終月、そして「読み」への挑戦
母音の聞き取りは予定通り全クラスで終了し、2クラスは復習の時間も確保できた。最終回、児童たちに「先に進むか、3文字単語の読みをするか」と尋ねると、どのクラスも「読みたい!」と答えた。約40枚のカード(bag〜zip)を使い、読みと意味を確認した。児童たちは90%以上の確率で読み進め、発音も5か月前とは見違えるほど上達していた。初めて見る単語も、カード裏の絵を見て意味を理解しながら読み進める姿に、頼もしさを感じた。この経験は、5・6年生になっても英語学習への自信につながると確信している。
■5. 教育委員会・校長先生・担任の先生へのメッセージ
●教育委員会の皆様へ
日本の小学校英語が抱える課題は、「音声指導の不足」ではなく**「音と文字の関係を教える仕組みがないこと」**です。日本人児童に適したフォニックス指導を導入することで、英語の「聞く・話す・読む・書く」の基盤が整い、中学校以降の英語力にも確実に良い影響が出ます。これは、教育委員会が「英語教育の質」を高めるための最も費用対効果の高い投資です。
●校長先生へ
学校全体の英語力を底上げする鍵は、担任の先生が無理なく実践できる指導法を導入することです。この方法は、10分でできる、特別な準備が不要、児童の変化が目に見える
という点で、現場の先生方にとっても負担がありません。校長先生の理解と決断が子どもたちの未来を確実に変えます。
●担任の先生へフォニックスは「難しい専門技術」ではありません。むしろ、日本人教師だからこそ教えられる指導です。日本語との違いを説明できる、子どものつまずきに気づける、優しい言葉で音の出し方を伝えられる、など。これはALTにはできない、日本人教師の強みです。児童が「読めた!」と笑顔になる瞬間は、先生方にとっても大きな喜びになるはずです。