小学3年生からのフォニックス英語

日本人教師ができるフォニックス指導

1.なぜ日本人は英語がにがてなのでしょうか

2.私が提案する明示的フォニックス指導について

3.私の指導を受けた児童たちの感想について

1.なぜ日本人は英語が苦手なのか

日本人がなぜ英語が苦手なのかについては、長年にわたり議論がされてきましたが、具体的な解答には至っていません。多くの日本人が8年以上もの間、中学校、高校、大学で英語に取り組んできたにもかかわらず、聞けないし話せないという状況だと思います。では、なぜ英語が苦手なのでしょうか?その理由は、話す訓練よりも聞く訓練が不足しているからです。多くの日本人は、文字で書いてもらえば意味が分かる単語でも、音として聞いたときに聞き取れません、すなわちスペルを推測できないのです。相手の話す内容が聞き取れなければ、会話は成立しませんし、続きません。聞く力がないままコミュニケーション力を身につけようとしても、限定的な進歩しか期待できません。そのため、英語を学ぶ際には、「耳」で英語の音を聞き取る力を育てる必要があります。日本語と英語の音域はずいぶんと違います。そのため、日本人とって英語を正確に発音するのは難しいし、聞き取るのも難しいです。多くの言語研究者たちは、この弱点を解決するには、臨界期と呼ばれる時期までに音声指導を開始すべきだと主張しています。年齢的には9歳ごろに当たります。この臨界期頃までに言語野にある機能、特に聞き取る機能を使わなければ、その機能は退化していくと言われています。現に、大人になってから耳を鍛えるのは時間がかかることから理解できると思います。ご存じのように、小学校では2020年4月より中学年には「外国語活動」、高学年には「外国語科」として導入され、音声指導の重要性が新学習指導要領の中で述べられています。しかし、現行の指導法では「耳」は育ちません。また、読んだり、書いたりする基礎力も身につきません。何故なら、新学習指導要領によりますと、耳」を育てたり、「読む」力を育むのは中学校での指導事項だと述べています。その指導要領の文面を紹介します。発音指導の中で、「音声と文字を関連付けて指導すること」(文部科学省、2018、p130)が求められている。しかし一方で、「発音と綴りを関連付けて、発音と綴りの規則を指導することを意味するものではないことに留意する」とあります。「発音と綴りとを関連付けて指導することは、中学校の外国語科における指導事項(p130)」、とあります。このことは、小学校の指導要領の中にフォニックスという文言を使用していないことからも推測ができます。現状の音声指導は私の知る限りは、チャンツ、CDの音を聞き取るドリル、ALTの発音を聞いてオウム返しで声を出すのが中心になっています。この方法では、聞き取れたり、正確に発音できるのは一部の耳の良い児童だけであり、その他の児童は自分自身でその調音法に気づくことはあまり期待できません。

私には、音声と文字の関係を指導して、引き続き発音と綴りの関係を指導しないという指導要領は大きな疑問です。児童たちの「読んでみたい」、「発音してみたい」、「読めた、発音できた」「間違えた、そう読むのだ」等という自然発生的な学習意欲と学ぶ機会にブレーキをかけていることになるのではないでしょうか。文科省の音声指導の目標は児童たちの挑戦しようとする機会を削いでいるように見えます。挑戦する姿勢の中に「学ぶ瞬間」があり、そのプロセスこそが成長に繋がるのではないでしょうか。文科省は彼らの潜在能力を過少評価しているように思われます。大人たちが彼らの能力や限界を一方的に決めるべきではない。上手に球を投げれば児童たちは期待に応えてくれるものだ。私の経験から、彼らには言語習得において無限の可能性があると確信しています。

2.私が提案する明示的フォニックス指導について

それを解決するのは小学校における明示的フォニックス指導だと確信しています。フォニックスの目的はアルファベットと綴りのルールを学び、読めるようになることですが、フォニックスを学ぶプロセスの中で他にたくさんのメリットがあると考えます。例えば、カタカナ発音から英語らしい発音ができるようになったり、発音が良くなることで話し相手に通じやすくなったり、英語を聞いた時に本人が認識している音と合致するので聞き取りやすくなります。また、音からスペルを想像しやすくなるのでスペルを覚えやすくなります。フォニックスのメリットは4つのスキル即ち聞いて話す、書いて読む力を育みます。

このように、フォニックスを学習するメリットはありますが、それを実践するには、誰が、誰を、どの教材を使用して、どのような方法で指導するのか、という課題があります。僭越ですが、私がどのようにこれらの課題に取り組んだのか、小学校での実体験を少しお話させていただきます。小学4年生を対象に、20年間使用したフォニックス教材を使用して、児童たちに取り組みやすい方法で指導いたしました。この体験を通して、日本人教師でもできる、いや日本人教師だからこそできるという確信に近いものを感じています。ネイティブより日本語で明示的に発声法を見せて聞かせて児童たちを指導できる強みがあります。校長先生の同意や担任教師の理解や協力を得てフォニックス指導の機会を得たのは、昨年の10月でした。今年の2月までの約5ヵ月間、各クラスの中で10分から15分間、計17回、約200分、4年生児童3クラスが対象でした。アルファベットの小文字を学ぶ時で、タイミングとしては最適でした。私の指導法の特徴と指導後の児童たちの感想についてお話いたします。

ご存じのように、日本でのフォニックス指導法はシンセティックフォニックスが多くの英会話教室や数はまだ多くありませんが全国の小学校で使用されています。その特徴は「文字」と「文字のオン」を学び、それぞれの音オンをつなげて読む方法です。aからzまでのすべてのアルファベットが1つずつ音(オン)を持っています。先ず基本の42音を覚えます。アルファベットの、「エィ、ビィー、シィー、…」という名前は「ア、ブ、ク、…」と読む「オン」があります。例えば、「ten」は「ティー・イー・エヌ」 とは読まず、「トゥ・エ・ン」=「テン」と発音します。私はこの発音方法に違和感を抱きます。意味のない音を覚えてそれらを繋いて「トゥ・エ・ン」を「テン」と発音するのはかなり無理があり、児童にとって大変難しい作業だと思います。私の英語教室では、teとnに音(オン)を分けて指導します。4年生は既にローマ字の読み方を学んでいます。ローマ字の知識が英語の正しい発音の邪魔をするという意見もありますが、私はそれを活用すればよいと考えています。母音と組み合わせて、ta, te, ti to, tuとして発音指導します。子音nの音に関しては、3文字単語を聞くドリルの中で耳から徐々に定着させます。3文字単語(CVC)の最初の音、最後の音、真ん中の音の聞き取るドリルをします。この辺りまで来ると児童たちは「読んでみたい」、「発音してみたい」という興味が湧いてきます。フォニックスの本来の目的である、「読み」に挑戦させるのが適切だと考えています。

指導者が準備するのは、3文字単語のカードと裏側に絵が描かれているカード。bagを例にとると、表はbagの文字、裏はbagの絵になります。読む作業の前に,ba be, bi, bo, buの発音を練習しておきます。念のため/g/の発音に関しては指導者が正確に発音して聞かせることが大事です。発音ができても意味が分からない児童にはカード裏の絵がヒントになります。「b」で始まる3文字単語、bed, big, box, bugなどの読みに挑戦させます。以上が基本的な私の「読み」への指導法です。なお、C+V+Cの3文字単語の選択については、できる限り児童が既習しているか知っていそうな単語を使うのが望まれます。リスニング教材と3文字単語に関しては、はパシフィックランゲージクラブの教材、Sounds of Englishを活用させていただきました。

3.私の指導を受けた児童たちの感想について

それでは、フォニックス指導を受けた児童たちへのアンケート結果を紹介いたします。

1.「フォニックスのレッスンは楽しかったか」については87%(82名中71名が回答)の児童が「楽しかったと思う」「少し思う」と回答した。かなりの児童が楽しく学んでくれたようです。

2.「アルファベット26文字の発音が上手になったか」という質問に対しても「上手になったと思う」「少し思う」と回答した児童が90%(83名中75名が回答)になりました。

3.「母音(a, e, i, o, u)を正確に発音するのは難しいか」については、「母音の発音は難しいと思う」、「少し思う」の合計が57%(83名中47名)でした。一方、「ふつう」、「あまり思わない」の合計が43%(83名中36名)でした。やはり、母音の発音は特に難しいことが分かりました。しかし、36名の児童がやればできる感触を与えてくれました。

4.次に、「CDでネイティブの音を母音別に聞いたとき、その母音が含まれているかどうか聞き取れるようになったか」に対しては、「母音の音が聞き取れるようになったと、とても思う」、「少し思う」の合計が91%(77名中70名が回答)であった。予想外の嬉しい結果でした。フォニックス学習の目的は、「文字の音オンを学習して読めるようになることです。しかし、音を聞き取る力、リスニング力にも効果があることが分かりました。

5.「3文字の単語(たとえば、dog)であれば、発音できるようになったか」の問いには、「3文字単語を発音できるととても思う」、「少し思う」の合計が83%(83名中69名が回答)でした。練習時間が十分にとれず心配していましたが、予想以上の嬉しい結果でした。

6.「今までより英語の発音がじょうずにできるようになったか」に対しては、「発音がじょうずになったととても思う」、「少し思う」の合計が95%(80名中76名が回答)でした。発音の大切さを強調してきた指導者として、嬉しい結果でした。英語嫌いになる理由の一つとして、発音の難しさが言われていますが、一人でも多くの児童が英語好きになって欲しいと願っています。

7.児童たちの具体的な声をいくつか紹介いたします。

「レッスンで前より母音が聞きとれたりするようになりました。」、「もともとあまり英語がとくいじゃなかったが、レッスンを受けてとても楽しく、きれいに発音できるようになった。宇宙飛行士の夢につながったと思った。」、「英単語が前より読めるようになったので、よし先生のレッスンを受けて良かったなと思いました。」、「すごくわかりやすいレッスンを受けて、いろいろな音が聞きとれるようになりました。それをいかして5年生でもがんばります。いままでありがとうございました。」、「よし先生が、いつも発音を言ってくれる時に、いつも口を見せて「口はこんなふうに動かすのだよ!」などを言ってくれるから、とても分かりやすいです。それに、前よりもっともっと発音がうまくなりました!!」、「今まで単語を読むのが下手だったけど、先生が一文字一文字に音オンがあるとおっしゃったので、覚えてみると発音も聞く力もグングンのびたし、単語を読む事ができて、書けるようになりました。Thank you!」。

さて、フォニックス指導がもちろんすべてを解決しません。あくまでも日本人学習者の弱点を補強し、大きな武器となることでしょう。フォニックス指導と並行して、児童たちのコミュニケーションスキルを育成する必要があります。大人も同じですがコミュニケーション力とは、自分自身を表現する、相手に伝える力、興味や関心を持った時に質問する力、そして質問するだけではなく質問されたときに答える力等が大事になります。基礎文法も大切です。語彙力も必要です。聞いて声に出す練習を重ねて、コロケーション(よく一緒に使われる単語の組み合わせ)やフレーズを一つの塊として頭の中に入れて、日本語を経由せずに口に英語が出てくれば理想だと思います。会話で即興に作り出そうとしても難しいです。頭にはいってない言い回しは口から出てきません。音読暗誦です。もちろん時間はかかりますが。

私が作成した「日本人教師にできるフォニックス指導案」にご関心がある方はご連絡ください。 e-mail address:takedayoshi@joy.ocn.ne.jpまで。

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